禁断の果実

仕事しすぎて変な脈になって過労死ってこうやってなるのかと思った金曜の夜、死ぬ前に無性に中華が食べたくなった。

 

そういえば大阪の友人が神奈川に来てると聞いていたので、誘ってみたらトントン拍子に横浜中華街で中華を食べることに。

 

行き先の中華料理店の名前は「楽園」。いい店は名前の時点でいい。

 

夜が明けて、楽園に向かう電車の中で、友人からの連絡。

 

「ご飯のあと、よかったらストリップ一緒に行こう」

 

楽園から楽園に行くなんて、さすがに神罰が当たりそうな気がした。

 

百合子の顔もチラついた。

 

でも断る理由はなかった。僕は死ぬために生まれてきたわけじゃない。

 

  

1つ目の楽園は、本当に楽園だった。

 

もし僕がカービィーなら、この店の厨房に居座って、料理が作られる端から皿ごと吸い込み続けるだろう。それくらい美味しかった。特に五目焼きそば、禁断の果実かと思った。また行きたい。

  

楽園を出て、楽園に向かう途中、僕らはパンを袋いっぱいに買った。

 

次の楽園は自ら退場するまで永遠にいられる。準備は万端だ。

 

 

満を持して2つ目の楽園、でもそこで僕が食べたのは、パンでも林檎でもなく、春の訪れを告げる甘い無花果だった。

 

春野いちじく。

 

友人が絶賛しているのは前から聞いていたが、今回この目で観て、その目から涙が流れるとは思わなかった。

 

詳細は書かないのがこの世界のマナーらしいので、一言でいうとすれば、春野いちじくのストリップはエロではなく、エモだった。

 

愛を奏でる音楽に合わせて決まるポーズ、飛び交うテープ、回るミラーボール、鳴り止まない拍手。この世の幸福の全てが、その瞬間に詰まっているような気がした。

 

外は土砂降りの中、高い湿度で濡れた身体に這う紐が、乳首に引っ掛かっていたのがすごく良くて、公演後のポラロイド撮りタイムで本人に感動したと伝えたら「あれは"ちっかかり"というんです」といわれた。また一つ、賢くなってしまった。

 

何かをプレゼントしたくて、買っていたパンの中からオシャレなベリーパイを渡そうとしたら、パンが全部入った袋ごと持っていかれそうになって、実家のパン争奪戦みたいになった。

 

その後、友人の友人(ガチ勢)の方が並んで取ってた特等席(真正面最前列)を初体験の僕に座っていいといってくださり、しばらく特等席で他の方のパフォーマンスを観ることができた。

 

ここで気づいたのが、顔の前、数十センチの距離に女性器と見つめてくる女性が来たとき、女性器だけを直視するとキモいおじさんになる気がして、まずは顔を見て、目が逸れた瞬間に女性器を見るともっとキモいおじさんになるということだった。

 

といっても現場の9割はキモいおじさん(自分含む)だったが、1割は若い女性も来ていた。そもそも僕の友人も席を譲ってくださった方も女性だった。僕はこの公演で3回くらい泣きそうになったのだが、その瞬間、ストリップは性的なものという次元を越えていたと思う。

 

今回いちじくさんの5周年記念ということで、途中イベントでファン代表のおじさんがスピーチを行っていたのだが、その中で「ストリップとは魂を開放する素晴らしいものだ」と仰っていた。僕はその言葉に感動を覚えた。

 

友人も「ここにいる人達は、性欲だけなら風俗に行けば済む話なのに、あえてここに来ている」といっていた。

 

なので僕は「キモいおじさん」という表現を訂正しなくてはいけないと思う。

正しくは「やさしくて、えっちなおじさん」だ。

 

そして僕も今日、やさしくて、えっちなおじさんになった。

 

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ストリップを観てる途中、不意に2人の友人のことを思い出した。

 

きっとこういう空間が大好きだろうな、連れてきたら喜ぶだろうなと思った。

 

でもすぐにその2人はもうこの世にいないことも思い出した。

 

この日常は、存在していること自体が奇跡なのかもしれない。